環藝録

写真でつなぐ広島風物記録

己斐わたるべき

福島川と山手川を越えて三角州から脱出すると己斐(西広島駅)にたどり着く。
広島市内を横切る国道2号線は、今よりもう少し北にあったので、駅前も国道だった。

……時は流れた。今はもう、この街もいきなり見る人の眼に戦慄(せんりつ)を呼ぶものはなくなった。そして、和(なご)やかな微風や、街をめぐる遠くの山脈が、静かに何かを祈りつづけているようだ。バスが橋を渡って、己斐(こい)の国道の方に出ると、静かな日没前のアスファルトの上を、よたよたと虚脱の足どりで歩いて行く、ふわふわに脹(ふく)れ上った黒い幻の群が、ふと眼に見えてくるようだった。
原民喜 永遠のみどり