参照することの多い『新版 呉軍港案内』(呉郷土史研究会刊)*1は、扉と背表紙に「昭和九年版」とあるけれども、奥付には「昭和八年十二月五日印刷 昭和八年十二月十日發行」なので、意味するところはカレンダーや手帳などと同じく、「昭和九年に使われる予定」のガイドブックということ。*2
書かれている内容は昭和八年やそれ以前の資料が元になっており、昭和九年以降のことはあくまでも「豫定」。
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- 凡例
本書を見るには‥‥
(略)店名、數字その他はなるべく最近のものをとつたものである。調査時期は必ずしも一定していないかも知れぬ。(略)
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- p70
呉工廠はまたも、大量の從業員を筯募、千九百三十五年の軍縮制限解放の秋をめざして、
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- p98
海軍墓地
(略)上海事變戰死者忠魂碑も、昭和九年三月頃までに墓地内へ建設される。
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- p105
吉浦公會堂
(略)昭和八年十一月十一日盛大な竣工式をあげた。
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- p167
そういう時期の本であるので、前項の猪山隧道はまだ出来ていないことになる。
同書p106にはこれから整備されつつある陸路「呉、廣島國道」の項目がある。
かねてより、呉、廣島両市民によつて、熱望されてゐた海岸線國道は愈々昭和八年より着工、吉浦狩留賀海岸、トンネルの掘鑿工事中である。總公費約二百万圓、三ヶ年繼續事業である。
狩留賀浜と吉浦を結ぶ国道31号「吉浦隧道」は猪山隧道よりかなり長い。隧道名横ノ刻字が「昭和六年五月」とすると、「海岸國道」の工事というのは狩留賀以北のことをいうのだろうか。
*1:平成11年復刻
*2:尼崎市立地域研究史料館の所蔵本では「1版昭和8年12月刊の3版」と、版(刷り?)を重ねている